先日、酵母や麹の違いを楽しむ日本酒会に参加させていただきました! とっても楽しかったので、感想を書きます。
いつぶりかの日本酒会
久しぶりの日本酒会! とはいえ、これまでに参加した回数はそれほど多くないかも。ワイン会とくっついていたこともあったしなあ。
今回の日本酒会は、数か月前のワイン会とまったく同じメンバーでおこなわれた。前回、メンバーのほとんどがSAKE DIPLOMAを受験するということが判明し、さらに一人の方が貴重な日本酒を開けてもいいよと言ってくださったために開催が決まった。SAKE DIPLOMA一次試験後の開催だったので、みんな無事に受かったかどうか若干どきどきしながら会場入りしたが、そこはさすがみなさん、当然のように合格していた(受かったかどうか窺う空気すらなかった)。わたしも通過できててほんまによかった〜〜……!
基本的にわたしが参加する日本酒会というのは、ワイン会のメンバーでおこなわれることが多い。だからなのか最近は、常にワイン的な表現で日本酒を味わうようになった。そしたら日本酒のイメージがだんだんシュッとした感じになっていくから不思議です。いや、もちろんお酒のほうも、デザインがモダンになったり味の傾向が変わっていったりはしているのだけれど。自分の飲み方が、そういう波に、今は半分くらい乗りかかっている感じ。もっとうまく乗っていきたいな。
今回は、ワイナリーの作る日本酒がメインの会。なんだろう、日本酒とワインの垣根が急速になくなっていってるなあと感じるなあ。海外のレストランでは、ワインペアリングコースのなかで1杯はSAKEを出すそうだし。ジャンルにこだわらずいろいろなおいしさを楽しめるのは、本当にいいこと。これからも、この傾向が進んでほしいな。
会場情報
今回は、大阪の谷町四丁目駅付近にある欧来食堂TANAKAさんで楽しませていただいた。

このお店、初めて連れて行ってもらったときから一目惚れ。店内は気軽な雰囲気なのに、出てくるお料理は味も見た目もすっごく本格的で、どんどんお酒がすすむんだよな〜。特に野菜料理の美味しさがすばらしい。ワイン会で何度もお世話になっているのだけれど、今回は日本酒といっしょだということで、どういうお料理が出てくるかずっと楽しみだった。
結果的には、すごいペアリングがいくつも味わえてさすがの一言! けっこうレアな日本酒でシェフも飲んだことないものがほとんどやったと思うのに、すごいなあ。具体的には、次の項目でSAKEと一緒に書きます。
SAKE LIST
小布施ワイナリー Sogga Père et Fils Le Saké Érotique
今回のメインは、小布施ワイナリーが冬季に「趣味の範囲で」造っている日本酒シリーズ。リースリング型のワインボトルに入っていてコルクで栓がされており、ラベルもフランス語表記なので遠目から見るとワインにしか見えない。
お米はすべて美山錦100%。自社畑ならぬ自社田んぼでとれたお米が使われている、ドメーヌスタイルの日本酒。そしてどれも、培養酵母を入れない古典的な生酛造りで生まれている。
今回味わったのはきょうかい1〜3号+5・6号酵母。4号だけ手に入らなかったそうですが、これだけのバリエーションを一度に楽しめるのはじゅうぶんありがたい(発売時期も少しずつ違うし、オンラインでは買えないので入手が難しいらしい)。酵母だけが異なるわけではなく、精米歩合などはそれぞれにあわせて少しずつ変えてある。
きょうかい1〜5号酵母は戦前に頒布が中止されている。小布施ワイナリーはそれらを復活させて使用している。趣味の範囲で……! 趣味ってすごい。でも、利益を度外視するからこそできることなのかもしれない。
外見はすべてクリスタルシルバーの色合いで、優しい甘みと上品な酸も共通していた。
Numéro Un(きょうかい1号酵母)
灘の櫻正宗の蔵で分離された酵母。
米粉っぽさが強い。お米の甘みが前面に出ていて、甘酒のようなニュアンスもある。
なんというか、安心できる実家のようなおいしさがある。
Deux(きょうかい2号酵母)
伏見の月桂冠の新酒から分離された酵母。
くるみのような香りがあり、最初はクセがあるタイプだなあと思ったけれど、少しグラスのなかに置いておくとそれが馴染んでとても良いアクセントになった。
軽やかな酸と、そのあと余韻まで続く旨味が印象的。
Trois(きょうかい3号酵母)
広島・三原の酔心の新酒から分離された酵母。
とにかく綺麗! 酸が主体で、すっきり流れるようなテクスチュア。
今日飲んだサケエロティックのなかで、これが一番好きだった。当たり前なんだろうけど、ワインの趣味と重なってるような気がするな。
Cinq(きょうかい5号酵母)
広島・西条の賀茂鶴から分離された酵母。
これはフルボディ。重心が低い。上品なのだけれど、酸、甘み、旨味などの各要素がボリューミーに感じられる。
前菜に出てきたしっかり味のついたお肉と好相性でした!
Numéro Six(きょうかい6号酵母)
秋田の新政の蔵で分離された酵母。No.6で有名ですね。
第一印象は、「あ〜、知ってる味やなあ」っていう感じ。でも、ほかのグラスも何周かしているうちに、やっぱり安定感のあるおいしさだなあと思って見直した。
とにかくクールでスリム。かつ、輝かしい味わい。
山本 神力×9号酵母 純米大吟醸
秋田の酒蔵さんが、熊本の酒米「神力」×熊本で分離されたきょうかい9号酵母で仕込んだもの。
熊本大震災からの復興支援の意味も込めて造られており、昨年は売上金を熊本城の復旧支援金に寄付、今年はコロナ禍を考慮してプライスダウンと、人のやさしさを感じるお酒。
ちょっとかためのメロンがやさしくやわらかく香る。この柔和な感じは、秋田の軟水の個性でもあるんじゃないかな。この雰囲気とても好きだなあ、また飲みたいなあと思った。
満寿泉 純米吟醸 MASUIZUMI GREEN ワイン酵母仕込み
ローヌ地方で採取されたワイン酵母を使って仕込まれた、富山のお酒。
これ……白ワインですよね? ブラインドテイスティングで出てきたら本当にワインだと思ってしまいそうな香り&味わい。
そんな柑橘系の果実味の奥から、やはりお米なんだなと思わせる香ばしさが顔を出す。おもしろいなあ。
五橋 醤油麹純米酒 SYO:YUN(しょーゆん)
醤油麹で仕込まれた、山口のこのお酒が、今日のMVPかもしれません。
単体で飲んだときは、その場の全員が「わあ醤油だ、おもしろ〜いw」という反応。香りが「空になった魚型醤油入れから出てくる空気」そのもの。しかし、味わいは意外と普通に日本酒だなあと思っていた。
でも、いざお料理とあわせてみると……なんですかこの絶妙なフィット感!? 急に出てくる独特の甘み! これはほかのどのお酒にも出せなかった要素で、この甘みの部分がパズルのピースみたいにお料理にぴったりはまるんだよなあ。
アジを豆乳ヨーグルトソースで和えてディルを添えた冷製クリームパスタと、見事なマリアージュ。醤油だから魚と合うのか? 大豆という素材どうしが共鳴したのか? それだけでなく、ディルのニュアンスにも、この絶妙な甘さが合う。
それから、メインの牛たんステーキにもこれ以外ないやろというくらい合いました。なんか、鉄っぽい、赤身っぽいニュアンスがあるからかも。一人の方が「鉄火巻にしょうゆを垂らしたときの味」っておっしゃったんですが、まさにそのとおりの味。背の青い魚とか赤身肉に合うのも、今思えば納得できる。
でもやっぱりこの変貌振りにはびっくりした。そのへんのモブキャラだと思ってたやつが実は必殺仕事人だった、みたいな感じだ。持ってきてくださった方も「キワモノ」として選んだようだったけど、本当にこれ味わえてよかったです。
五橋には「みーそん(味噌麹)」もあるのか、飲んでみたい……
人間と科学と自然を考える
香りや味わいにおける酵母や麹の影響がすごすぎた。特にペアリングにおいて凄まじい力を発揮していた。彼らは確実に裏番長である。いや、助演男優賞/女優賞とでもいうべきなのだろうか。とにかく……凄腕としか言いようがない。
日本酒は酵母や麹によってこんなにもカラフルになるのだなあと、改めて思った。そう、本当に今回の日本酒会は、はじめからさいごまで色とりどりの会だった。お米や水という紙に酵母や麹で絵が描かれていく感じ。
だがしかし、そういう素材たちの良さを活かしている杜氏さんたちも本当にすごいんだよなあ。日本酒ってパワーバランスが造り手(人間)側に傾いていて、酵母を含めた素材の良し悪しみたいなものがワインよりわかりにくいお酒だよねと思っていたけれど、今日こうやって酵母のちからを感じたことで、いやいやそんなことはない、日本酒だって造り手と素材(造られ手?)の絶妙なバランスで成り立っているのだわ、と感じさせられた。
造り手である人間もまたある意味では素材の一部かもしれないとかそういうことを考えていると、自然と人間の間に線を引くことの無理さがどんどん実感できる。それは、酒造りにいくら科学的な見方が持ち込まれるようになっても同じ、というか、もっと線が引けなくなってくるのかもしれない。
もともとワインのブドウ樹などを取り巻く自然環境のことである「テロワール」っていう概念に、土壌や気候だけでなく造り手を含めるようになった近年の傾向が、今回の日本酒会の終わりになんだかとつぜん腑に落ちたのだった。