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嫌い、でもべつによくなった

江國香織『去年の雪』を読んだ。なんと100人以上が登場する小説である。しかも、舞台となる時代も場所もばらばら。ちっちゃな粒粒が四次元レベルで近づいたり遠ざかったりするのを、ずっと、ぼんやりながめていた。

江國香織を読むのは何年振りだろう。湿度の高い空気の中で淡い色彩がじんわり広がっていくこの感じ。少なくとももう10年以上、遠ざけていた感覚。

なのに今になってこの本を買ったのは何がきっかけだったか、すっかり忘れてしまった。本棚の整理をしたら出てきたので読み始めた、というだけ。最近読んでいるものと異なるレイヤーに行けて、楽しい体験だった。やっぱりいろいろなものに触れることは大切ですね。

たべものの白さについての言及が多くて(夏レンコン、とうふ、餅など)、同じようなことをこの春にぼんやり考えていた自分にとってタイムリーだった。

この人の文章を読むと恋愛や結婚、家庭などについての嫌悪感が高まるのは昔と変わらない。中学ごろにこの手の書き手に触れていなければむしろ、今ほどの嫌悪感を抱かずに済み、異なる人生があったのだろうか?

でも、こういう書き手が世に出るということは、そもそも世の中じたいが嫌悪感の根本原因を作り出しているということで、わたしが何をしようとしまいと、わたしの価値観は大きくは変わらなかったんだろうな。

それはそれで、そういうことでいいんだな、と思わせてくれる小説でもあった。というのも、読み終えたときにはすでに自分を登場人物のリストに加えていたので、そんなことではもう苦しくなりようがなかったのだ。

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京都在住。創造的なことすべてに興味があります。

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