つかいみち

池澤夏樹=個人編集 日本文学全集を購入した。国からもらえる10万円を見越しての注文だ。

数日前に届いていたのだけれど、なんだかもったいなくて開けられなかった。箱を開けてカラフルな背表紙を見る瞬間を、脳内で何度も何度も再生する数日間だったが、やっと本物を体験しようという決意が固まり、ついさっき開封の儀をおこなった。3つの箱を開け終わったあと、あまりにも嬉しくてしばらく呆然としていた。文学作品の全集を買うのはこれが初めてだ。新しい本の匂いがする。嬉しくて切なくてどきどきする匂い。愛しい。

何を買うかまだ決めていないときから、失われてほしくないと心から思えるお店でこの10万円を使おうと決めていた。自分にできることはそれだけしかないように思ったのだ。そしてこの全集を買うことに決めた時、まっさきに思い浮かんだのがtoi booksさんだった。問い合わせフォームか何かから個別注文しようとしてHPを見ると、すでにこの全集がオンラインショップに並んでいた。びっくりしたし、とても嬉しかった。予想外だったのに、やっぱり、と思った。

お店のロゴが入ったトートバッグと、一周年特典小冊子『全身が青春』が入っていた。たぶん後者は、磯上竜也、大前粟生、町屋良平の3氏がnoteで更新している日記『全身が青春』の特別版なんだと思う。全集の箱を開けっぱなしにしたまま、床に座り込んで、わたしはまずその小冊子を読んだ。胸と腕と手のひらの、泣きそうになるときに痛くなるところがシクシク疼いた。これは、本当に大切にすべき本なんだとわかる。とても数少ない、わたしにもわかること、そのひとつを今見つけたのだ。この小冊子は、全集のそばでずっと保管しようと決めた。ダンボールに貼ってあった、手書きの送り状も一緒に入れて保存しておくことにする。今の気持ちをできるだけ長く、できるだけ鮮明に覚えておきたかった。わたしが死んでも、世界に覚えていてほしかった。

この全集のうち、自分はいったいどれから読むのだろう。わたしの未来は、どの背表紙を手に取りたい気持ちで構成されていくのだろうか。色とりどりの選択肢が自分の部屋に届いたことで、あらゆるわたしが許されたように感じた。

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