ある日 知る
こころに色があることを
ことばに色があることを
音楽に色があることを
時間に色があることをわたしに色があることを――
(「はじまりの色」)
新型コロナウイルスの感染拡大で、世の中が「非常事態モード」になってきました。いつもと行動を変えざるを得ず、街の雰囲気は張り詰めていて、ただ毎日を過ごしているだけで少しずつダメージを受けているような気がします。
そこで、疲れた心をやんわりほぐしてくれる、優しい本をご紹介したくなりました。
おーなり由子『きれいな色とことば』。やわらかな絵と文による「絵の本」です。
やわらかな色の世界にたゆたう
本書には、色にまつわるエッセイと、著者本人による水彩画が収められています。そのどれもが優しく柔らかく、しみじみと味わい深くて、なにかに疲れたときにはいつも開きたくなる本です。
おーなり氏の紡ぐ言葉には、不思議な柔らかさがあります。
あわあわと、あわいあわい片想いをしていた。
こまかくあわだちながらしぼんでいく、青い夕暮れ色のしゃぼんのような。
雨が降りそうで降らない日の、ぼんやりあかるい藤色の雲のような。(「藤色のいちにち」)
心地よいリズムを感じる文章と、その合間に挟まる水彩の挿絵とを交互に味わっていると、やわらかく淡い色の世界を、ゆったりたゆたうように泳いでいるような気持ちになるのです。
そんなふうに、著者の描き出す世界を旅しているうちに、思い出すことができます。「目の前にあるわたしの毎日も、わたしが抱く気持ちも、本当は色とりどりなのだ」ということを。
色とは、優しいもの
この本には、次のような形で「色」が出てきます。
- 青いたからもの
- 銀色のあぶく
- 透明な風船
- みどりのたべもの
- 橙色のチャイム
- おふろやさんの白い湯気
- すいか色のめがね
どの色も、おーなり氏の日々の気持ちにぴっとりとくっついて、しなやかに揺れながら微笑んでいるようです。
本書を読んでいると、「色というのは、なんて優しい存在なのだろう」と驚いてしまいます。
色は、ときには人を励まし、ときには人に寄り添ってくれるものです。はっとするような美しい色に心を動かされ、目が覚めたように感じることもあります。どうにも言葉にできない気持ちを抱えているときには、それを色で表すことで、なんだか救われることもありますね。
でも、疲れているときには、そんな色の優しさを忘れてしまいます。逆に、世界に色があることを忘れたまま過ごしていると、だんだん疲れてくるのかもしれません。
色のひかりは、やすみなくふってくる
みつけた人に、見えるように――(文庫版あとがきより)
どんなときにも、自分のそばにはたくさんの色たちがいてくれる――そのことをいつも忘れないでいたいなあと思います。心がしんどくなったとき、目の前にある色たちをもう一度見つけられたら、きっと少しは楽になるのではないでしょうか。
「すきな色になっていいよ」
この本の中でわたしが一番好きなのは、「すきな色になっていいよ」というフレーズです。
日々、わたしたちはそれぞれ、いろんな色になっています。そんなひとりひとりの色が少しずつ混ざったり、混ざらなかったりして、世界全体がいろどられてゆくのでしょう。
世界を素敵な色にするためには、まずはひとりひとりが、自分の「すきな色」になることです。
それはずっと同じ色でなくてもよくて、むしろ「今日はどんな色で暮らそうかな」「明日はどんな色になろう?」と、毎日新しい色に生まれ変わるように過ごすことが大切であるような気がします。
『きれいな色とことば』は、あなただけの「すきな色」を探すのにきっと役立つ本です。本棚からいつも見守ってくれる、色とりどりのお守りのような本でもあります。
「暮らしから色が消えてきた」と感じる方も、「すでに鮮やかだけれど、もっといろんな色を知りたい」という方も、どうぞ本書を手に取ってみてくださいね。