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スイス・ロマンド管弦楽団/ジョナサン・ノット/辻彩奈(Vn.)

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◇ 木管サウンドの真髄、ごはん+パン=うどん

スイス・ロマンド管の木管セクションはまじですごかった。
違う木管どうしで音をブレンドするっていうのがどういうことか今までわたしはわかってなかったなあと思った。

たとえばフルートとオーボエがユニゾンで吹いて音が混ざる、というのを、今までわたしは「赤い絵の具+黄色の絵の具=オレンジの絵の具」くらいの意味合いでしか捉えられていなかった。

それは、かなり甘い考えだった!
せめて「ごはん+パン=うどん」という程度には、異質な(フルートだけ/オーボエだけの音色とはまったく違う)音色が出てこないといけないのだ!!!

同じ「絵の具」という結果を目指してるうちは、オーケストラの木管楽器の可能性をまったく活かせない……

木管セクションの意味――あんなにも発音体の違う4つの楽器が近くで一緒に演奏することの意味――を目の前にしてわたしは、自分がそこに加われる楽器を演奏していることがとても幸福だった。

◇ メンコンは悲しい曲

メンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲のことを、いわゆるヴィルトゥオーゾ的な作品というイメージで捉えていたが、それは間違いだったということがわかった。

この日の辻彩奈さんの演奏のおかげで、わたしはこの曲をとても好きになることができた。幸甚。

誰かがひとり、自分の部屋でぽつぽつと嘆かわしく呟くのを聴いているような感じがする作品がわたしは好きだ。
今日のメンデルスゾーンの、特に1楽章はそのようなテイストを全面に押し出してくれていた。

この1楽章のおかげか、そこから続く2楽章は、いつもより現実離れしたノスタルジックな幸福感をもたらしてくれた。
そして、3楽章のあの底抜けの明るさはいったい何なのか? どういう心境であれを書いたのか? という、今まで抱くことのなかった疑問を持つことができた。何か文献があれば読みたいな。

「帰りたさと帰れなさ」をかなり強く感じるロマンティックな演奏。
前期ロマン派を自分の好みの解釈で聴けるのはとても嬉しい……

◇ マーラーについての新たな印象

メンデルスゾーンについては独白を覗き見ることができるが、マーラーとなるとそうはいかない……というのを改めて実感できて面白いプログラム。
メンデルスゾーンもマーラーも指揮者だし、こうやってどこかに共通点のあるプログラムの組み方がとても好きなので、嬉しかった。

マーラーの音は客席まで押し寄せて観客を攫ってゆく波のようで、ここではわたしはもう観衆、傍観者、覗き魔でいることはできない。
演奏者 or 作曲家の視点に同一化してしまう魔力のようなものがあり、したがってマーラーの作品は非常に映画的であるように思う。

この日の演奏、不自然なダイナミクスの表現も本当に巧みだったと思う。
あんなに楽譜通り吹けるもんなのかと思った……

自分が演奏するとき、マーラー独特のあの変なクレッシェンドやデクレッシェンドは、身体を変に動かさないと表現できないのだが、
このオーケストラの木管セクションの特徴として「ノリノリで(身体全体で?)吹いてくれる」というのがあり、「プロでもやっぱりこういう風に身体動いちゃうよね」というのが確認できてよかった。

そういう風に楽譜通り表現された不自然なダイナミクスから、なんとなくエゴン・シーレの絵を思い出した。あの不自然さ、

それと同時に、マーラーの音楽はわたしが思っていたよりずっと即物的というか機械的なのだな、と思った。
うまく表現できないが、たとえば時とともにオケ全体のボリュームを上げるときなど、「音量が上がらざるを得ないから上がっている」という感じがする。上げたいから上げているのではないという感じ?
それが、機械的な感じ、機械的操作、の印象を与えるのかなあ。
そんなんだから、演奏するのは難しいに決まっているよね……と思いました。

◇ パンフレットも良い

見た目が少し薄かったので1000円は高くない? と思って買い控えたツアーパンフレット、演奏聴き終わったあと、あまりの感動にやっぱり買った。

全体的に中身が濃く読んで面白い。
オーケストラの歴史についての詳しい記述やジョナサン・ノットへのインタビューなど内容が多彩でそれぞれに読み応えがあるし、プログラムノート(文:池原舞)も簡潔だがわかりやすくて内容が充実している、こういう文が書ける人尊敬するなあと思う。
そしてデザインも素敵。買ってよかった。

◇ リピありです

そんな感じで、大満足の演奏会でした。
スイス・ロマンド管の音色、演奏、とても好きになれたので、また機会が訪れたらぜひ聴きに行こうと思った。
好きなオーケストラが増えるのは嬉しいことです! 無限にお金欲しい!

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京都在住。創造的なことすべてに興味があります。

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