気がついたときには、家ごと海に浮かんでいた。
窓の外に広がる青みどり。あんなにも憧れたイトマキエイが、物干し竿のすぐ向こうに飛んでいる。
ぼんやりしたクラゲの影、へんな形の虹彩、すらりと立つ海藻。
さみしさの中で僕は、リボンみたいなうみへびになった。
ひらひらとほどけながら思い出す、あの日の平らなパスタ。だけど君がどんな仕方で泣いたのかは思い出せない。
焼け焦げて君のおなかに入ってあげたかったんだ、あの時ほんとうは。
ここが陸ならば、ここが空ならば、ここが地獄ならばよかったのに。もう僕は、君とちがう四角の中で、窓を開けるための手を捨ててしまった。
冷たくも熱くもない水の中で、ずっと続く流れ星。
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